人事異動の季節になると環境の変化や仕事内容に慣れないことや職員同士で気を使いすぎて心の病に陥り心療内科を訪れる人が多くなります。その中には昇進によるストレスから生じる「昇進うつ病」や入社後まもなく無気力状態や心身症的な状態に陥る「五月病」などがあります。しかし、転勤や異動が必ずしも悪い影響を与えるものではなく、むしろ、その人の新しい可能性を広げる絶好の機会ででもあります。人事異動がその人にとって生きがいとやる気を持って仕事に取り組むきっかけとなり、能力以上の力を発揮することもあります。
しかし、組織の中では誰もが満足できるような人事が行なわれることは、なかなか難しいのが現状でしょう。新しい環境に適応する努力や慣れない仕事に取り組み、それを克服した体験は知らずのうちにその人の自信となっていきます。また、昇進や異動を繰り返し体験することで上手な対人関係の方法を身につけ人格的にも成熟し社会人として成長できるという側面もあります。しかし中高年になると環境の変化に弱くなるという一面もありストレスが一気にあふれ出て、うつ病という形で表面化することもありますので注意が必要です。
この心の病は、昇進による環境の変化にともない、周囲の期待や責任を過剰に意識しすぎるのが原因と考えられます。無遅刻、無欠勤、残業もいとわず、こつこつ働いてきた努力型の人がかかりやすいといわれます。
昇進、転勤や人事異動がストレスとならないようにして、自分の可能性を広げるためには、次の五つのポイントを心がける必要があります。
23歳、女性会社員Aさんは地方有名大学を卒業後、名古屋の商社に就職しました。4月から5月にかけて研修続きでその間に同期入社の仲間に対する劣等感、自信のなさに悩むようになりました。ゴールデンウィーク最後の日の夕方頃から翌朝にかけて、頭痛、めまい、吐気、食欲低下が起こり、以降、出勤するのが億劫で会社を休みがちとなりました。
4月から5月にかけては新しい環境下で新たな人間関係で人生のスタートをきるさまざまな変化のある時期にあります。入社したものの新たな環境の変化になじめず、会社の一員としての自覚もまだ十分に形成されていません。具体的な目標や生きがいがもてる状態にあるわけでもない。こういった状況の中で会社内での自分の目標や役割が見つからず無気力状態や心身症的な身体症状に至るような状態を「5月病」といいます。会社の雰囲気に少し慣れてきて自分を振り返る余裕ができるようになったゴールデンウィークにホッと一息ついた頃に起こる傾向があります。
Aさんは就職するにあたって、漠然とした期待を抱いていただけで具体的な目標や主体性はなかったようです。この病気は元来、有能で几帳面、生真面目で過剰適応しようとする傾向が強い人に多いようです。Aさんのような落とし穴に入らないためには仕事一辺倒にならず何か夢中になれるような趣味や生きがいを持つことが重要です。個々にあった生き抜きや気分転換の方法を日頃から探しておく必要があります。マイナス思考をやめ気持ちの切り替えをうまくしていき、心のギアチェンジをしていくことが大切です。まず、休日をいかにうまくすごすかを考えてみてください。
ストレスは一般的には精神症状を悪化させると考えられていますが、そのストレスが軽くなったり、消え去った後にあらわれるうつ状態を「荷おろし抑うつ」といいます。
自分がめざす大学に合格したり、念願の会社に入社したときや昇格し、人事の争いからやっと逃れ出たときのように人生の目標が達成された場合や、嫁姑関係でずっと悩み、耐え続けてきた嫁が、当の姑が亡くなりストレスが解消したと思われる時期に抑うつ状態におちることがあります。
病気になる前の性格傾向は執着気質やメランコリー型と呼ばれる性格で特徴づけられます。この性格の持ち主は真面目で几帳面、仕事熱心、熱中性、責任感が強いタイプですが、その反面、何か一つのことにこだわりだすと、それが頭にこびりついて離れなくなり、そのことだけにとらわれてしまいます。また、周囲の者に配慮する気持ちが非常に強く、人の関係や組織の中で秩序を保とうとする傾向が強い性格の人にこの種の抑うつ状態がみられることが多いようです。
このような人にとって引っ越し、転勤、昇進などは慣れ親しんだ状況から出て、新しい秩序をつくりなおす必要があり発病の危機となります。
この病気にならないためには、以下のことに注意する必要があります。
などです。
「なんとなく行きたくない」とか、「行こうとすると体調が悪くなる」などの理由で職場へ行けなくなる状態をいいます。働き盛りの中間管理職に多くみられ、几帳面で完璧主義の人がかかりやすいといわれます。
本症候群は主に6つのタイプがあります。
などが考えられます。
病気の場合は、うつ病で自責的傾向が強く、意欲、気力が低下したり、神経症や心身症のため出社不安、外出不安が強いこと、はっきりと身体病の診断がつきにくい場合などがあります。これらの病気は軽症なものほど診断がつきにくいため、周囲の理解が得にくく誤解されることが多いようです。病気のため出社できないのに、不出社のみが問題化される場合が少なくありません。
根本的な治療法としては、まず原因を取り除くことにあります。何らかの病気による場合は、その治療が優先されます。一刻も早く専門医の治療ないしはカウンセリングを受けることが大切です。不出社の当人に対しては、心身の治療、種々の問題が解決できるよう支持的、援助的な関わりを行います。また、家族や会社側に対しては、病気についてよく説明し、誤解されないように、回復に向けて理解と協力が得られるように働きかける必要があります。
これまで全速力で走ってきた、いわゆるモーレツタイプの人が、突然、燃えつきたように仕事への意欲を失ってしまう状態をいいます。自分の思い描いてきた理想と現実のあまりに大きなギャップに気づくことが原因の一つとしてあげられます。最近は女性の職場への進出がめざましくなっており、男性並にハードな仕事をこなすキャリアウーマンにとって男性社会の壁に突き当たったときなど大きなストレスとなります。また、仕事と家事や育児一切を完璧にやってきた女性にとって子供の自立と共に身も心も疲れ切って無気力感におそわれ、仕事も家事も手につかなくなることもあります。職場不適応というよりむしろ、めまぐるしい出来事や環境の変化に懸命に適応しようとして努力し疲れ切ってしまう傾向があります。
精神症状として、抑うつ、無感動、無力感、意欲や理想の喪失などがみられます。身体症状として、体重減少、不眠、全身倦怠感、食欲不振、息切れなどがあらわれます。
「燃えつき」に陥りやすい人は、仕事熱心で責任感が強く献身的であるが、一方で人に仕事を任すことができなく、柔軟性に欠けるといった特徴があります。また、人からの評価を極度に気にし、他人からの無視に耐え難いタイプに多いと判断されます。このような性格の特徴は妥協を好み、人や組織に忠誠をつくすといった典型的なうつ病の性格とはかなり異なっています。
中年サラリーマンは「燃えつき症候群」に陥るのが当然と思われるほど多忙な環境に身をおかれています。それに陥ってしまうか、意欲をもって生き生きと生活できていくかは、その人の対処行動やその人を取り巻く支持・支援態勢がしっかりしているかどうかにかかっています。
「燃えつき」にならないためには、以下のことに注意することが大切です。
職場にコンピュータが導入され、OA(オフィス オートメ-ション)化の進歩にともない、ディスプレイ 端末装置作業が増加したのが契機となり、OA症候群という職業病が蔓延しています。コンピュータ化により企業の生産性の向上は確かに現実のものになっていますが、生産性と業務管理があまりにも優先され、人間性が疎外されたり、人間関係が希薄化する傾向がみられ、OA化によるストレスを増大させる要因となっています。
コンピュータの画面からは電磁波や微量の放射線が出ており、業務の内容は非常に心身ともに疲れるものです。その症状は目が疲れる、肩がこるなどの身体症状から、イライラや憂うつなどの精神症状までさまざまです。
OA疲労を予防する作業姿勢や環境として以下のことに注意する必要があります。
コンピュータによるストレスは、職場だけではなく家庭にも影響していることが考えられます。疲れきって帰宅し、口をきくのもわずらわしいぐらいに疲労困ぱいしてダウンする人もあるかと思われます。いくら若い人であっても作業量が多くなったり、長時間残業や不規則な生活が続き、心労が重なると心身のひずみが生じます。なかにはコンピュータが好きでたまらなかった人でも、いつも時間に追われ、緊張が続き、疲労が慢性化して、数年のうちになにもかもがいやになってしまうこともあります。
これらの対策法として以下のことがあげられます。
これらのことを実践しても、また趣味やスポーツによる気分転換をおこなってもストレスが除かれない場合には、長期的な配置転換をしたり、転職することにより改善することがあります。
かつては夫との親密な愛情で満ち、子供たちも母親中心であった家庭が、夫は仕事や趣味に多忙であったり、単身赴任などで不在がちとなります。子供は思春期を迎え、進学や就職などによって巣立っていく時期を迎えます。そんな時、愛の巣が空っぽになったという体験とともにおこる空虚感、孤独感や抑うつ感などの症状を空の巣症候群といいます。同じ状況の父親についてもいわれることがあります。
ひたすら夫や子供につくしてきた良妻賢母型の主婦が、子育てという荷下ろしがすんだ頃、自分の人生をあらためて振り返り、「これまでの人生は一体何であったのか」「これでよいのか」とむなしい気持ちになり、一人ぼっちになったと落ち込みます。また、更年期と重なるため、のぼせ、発汗、動悸、食欲低下、疲労感、イライラ、不安感、不眠など心身の不調があらわれます。
この症候群は、女性が自己中心的な心理状態におちいり、うつ状態、アルコール依存、離婚に至るなどの現象がみられます。また、そのむなしさを除くためさまざまな虚栄や欲望をみたそうとします。度がすぎると日常生活上、あるいは社会的にも不適応行動がみられる場合があります。
今や人生は80歳までの時代です。女性は結婚、出産、子育てがすべてではありません。子育てが終了した後にも自分の人生を問い直すための十分な時間があります。
夫や子供だけが生きがいになっている人たちは空っぽの巣箱に一人とり残されないために以下のことに注意する必要があります。
更年期の女性にとって、避けられない現実として老化していく体を受け入れる一方で、母親として以外の自分の役割を追求していくことは次なる「第二の思春期」を送る上で非常に重要な課題であると思われます。
近ごろ、心の病気に陥る「疲れたお父さん」が増えています。40歳を過ぎて、ようやく手にした中堅管理職のポスト。その喜びもつかの間、上司と部下との板ばさみからストレスの洪水。加えて、家庭では「粗大ゴミ」「ぬれ落ち葉」「ゴキブリ亭主」扱いで、自分の居場所を探すこともしばしば。働き盛りのサラリーマンのストレスはたまる一方です。
「わが家が恐い」「帰るに帰れない」という心理状態に陥る軽症のうつ病の一種と判断されます。
本症候群にかかりやすい人は、生真面目で要領が悪い、酒もやらず、これといった趣味やスポーツもしない、仕事のみが生きがいである、妻や子供との会話が少ない、家庭に居場所がなく気が休まらない、何かと近所と比較されている、給料は妻が実権を握っているなどの傾向がみられます。
原因として、職場のストレス、家族とのコミュニケーション不足があげられます。「父権失墜」「夫権失墜」などで家庭内の地位が低下し、妻や子供からの何気ない言葉に反応して家に帰りたくなくなり、不安、うつ状態、不眠状態に陥ります。例えば、「安月給のくせに」「あなたと話してもムダ」「晩ご飯いらないんでしょ」などの一言が心にグサリと身にこたえます。