強迫神経症とは自分にとって無意味であることがわかっていても、ある考え(強迫観念)や行動(強迫行為)が繰り返されやめようと努力するにもかかわらず、それがなかなかやめられず悩んでいる状態を示します。患者は何をしようとしても、それで正しいのか、完全なのかといった疑惑が生じ、また初めからやり直さざるを得ない状態に苦悩します。
例えば、ガスの元栓や戸締まりが気になり何度も確認する、手洗いを何回もする、入浴に時間をかける、洗濯を繰り返す、歩く方向や歩数を気にして実際に確認の行為を儀式的に行うなどが認められます。また、何か悪いことをしてしまうのではないか、人を傷つけてしまうのではないかなどと考え悩み続けます。さらに握手で感染する、汚い物や細菌が口に入ってくる、身体に何か汚い物がついているといった強度な強迫観念や恐怖症に発展することもあります。
この病気は一般人口の約2%にみられ、思春期から青年期に多く、10~40歳までの発症が81%を占めます。なかなか頑固で治りにくいともいわれますので早めに専門医に相談して下さい。
強迫の本態はセロトニンの調節障害と考えられており、強迫性障害の薬物治療はSSRI(セロトニン選択的再取り込み阻害剤),クロミプラミンやトラゾドンなどといった抗うつ剤でセロトニンの神経伝達の是正化がなされるといわれています。不安や焦りが強い時や治りにくい場合は抗不安薬や抗精神病薬の併用が有効となります。最近の調査によると2/3以上が治癒するといわれています。薬物療法の進歩とともに改善率はさらに向上しつつあります。
精神療法やカウンセリングとしては患者の訴えをよく聞き、治癒しうる病気であることを伝える必要があります。強迫状態というものは自分の内部から意志に反して現れるものです。決して、「気のせい」「考えすぎ」「そんなばかなことはありえない」などと一笑に付したりしないことです。周囲の者は強迫症状の特徴を理解し、患者の不安に対して大丈夫であると保証を与え自分を信頼するようにと支持することが大切です。さらに、行動療法といって強迫症状をあえてストップさせ、行わなくても大丈夫であることを自ら経験し行動的に解決ができるよう援助していく方法があります。
恐怖症は外部から自分に向かってくるものに対する不安と恐怖であり、強迫症状が自分の内部から意志に反してあらわれてくるものとして区別されます。自分でも不合理だと思いながらも自分の意志に抗しがたく、その恐怖感を制御できない状態といえます。例えば、なにか汚い物やばい菌がついているという恐怖感(不潔恐怖)、性病、癌などにかかるのではないかと心配する(疾病恐怖)、尖ったものに対する恐怖感(尖端恐怖)や乗物に乗ることに恐怖感がある(乗物恐怖)などがあります。これらは単一恐怖と呼ばれています。単一恐怖は最も多くみられる恐怖症です。米国の調査によると一般人口の5~12%にみられます。さほど日常生活には支障はきたさないようです。
また、人前で緊張し、赤面すること(赤面恐怖)や自分の目つき、鼻立ち、顔つきに異常を感じること(醜形恐怖)や人の視線を感じて悩むこと(視線恐怖)などの対人恐怖があります。これらは社会恐怖と呼ばれます。社会恐怖は15~20歳に発症することが多く、治療を放置するとうつ病やアルコール依存になりやすいといわれています。早目に専門医に相談してください。
だだっぴろい広場やデパートのような人混みの中にいることに不安や恐怖を感じること(広場恐怖)やエレベーターや狭い部屋にいることに不安や恐怖を抱くこと(閉所恐怖)やビルなどの高いところが恐くて避ける(高所恐怖)などの特定の場所や状況にいることに不安や恐怖を感じる場合を空間恐怖といいます。空間恐怖はパニック発作(自律神経の発作症状)のある人が多くかかります。発作があった場所や状況を避けるようになります。この状態が長く続くことにより日常生活に支障がでてきます。また、空間恐怖の患者の多くはうつ病の原因にもなる離別・死別体験をもつことが多いと指摘されています。また、本人にうつ病の既往歴があったり、家族にうつ病の人が多いといわれています。
治療としては薬物療法(抗不安薬、抗うつ薬)を併用しながら恐怖を抱く場面に徐々に慣れていけるように段階的に治療を進めていく暴露療法や患者と恐怖を結びつけている持続的な否定的な考えを肯定的なものに変えていこうとする認知行動療法を実施することによりかなりの効果が期待されます。最近ではSSRI(セロトニン選択的再取り込み阻害剤)という新薬が恐怖症に効果がみられています。
27歳の男性会社員Aさんは車の運転中に急に胸のドキドキ、息苦しさ、過呼吸発作が出現しました。以後、毎日のように症状は現れ、しだいに、不安、心配、緊張感が持続するようになりました。内科的に異常は認められません。生活歴を聞くと複雑で、5歳時に交通事故で両親と死別しています。24歳で結婚し二児をもうけましたが、本人の浮気が原因で離婚することになりました。
この症例ではAさんの死別体験と最近の離婚体験が発病要因としてあげられます。不安神経症の場合はより心理的な要因が大きく関わり出現すると考えられます。パニック症と病像が重なることもあります。身体症状として、動悸、息苦しさ、疲労感、発汗、めまい、立ちくらみ、ふるえ、しびれ、冷感、ほてりが毎日のように続きます。精神症状として不安、心配、イライラ、緊張などが現れます。
Aさんの治療にはストレス対処法、対人関係の保ち方、生きがい、人生観などについて様々な指導やカウンセリングが必要になってきます。補助的に抗不安薬や抗うつ薬などが使用されます。特に身体の発作症状に対しては薬物治療が効果的です。