乳児期(0~1歳)から幼児期(1~6歳)を経て学童期(6~12歳)までを小児期といいます。
乳児期には母親との間に情緒的な関係がつくられ、基本的信頼感が確立されます。母親との交流を通じて、愛情欲求、依存欲求を満たしていく時期として重要な発達段階といえます。乳児期にみられる心身症的症状にはミルク嫌い、嘔吐、下痢などがあります。
満1歳で乳幼児期がおわると、幼児期が始まります。この時期には歩行能力、言語応力が発達し、離乳が始まることにより、自律性がやしなわれることになります。さらに、トイレのトレーニングがなされ、自力で排便、排尿することができるようになります。この時期に自我が発達し、親のしつけが始まり、一層の自律感の発達を促すことが期待されます。親のしつけが厳しすぎたりすると劣等感、嫌悪感、欲求不満として体験されることになります。弟や妹ができると嫉妬心を抱くこともあります。3~6歳になると両親と子供との関係のなかで愛情や敵意を体験しながら、一体感を強め、両親の愛情を深めることができます。親からの愛情が欠乏している場合には思春期以後の将来において様々な問題行動や葛藤として体験されることがあります。
幼児期にみられる心身症的症状にはミルク嫌い、腹痛、嘔吐、下痢、つめかじり、指しゃぶり、チック、夜驚症、どもり、おねしょなどがあげられます。
6~12歳までの学童期には、学校での集団生活を体験することにより、親離れがすすみ、生活の行動範囲が広くなります。いろんな考え方や価値観をもつことができ、様々な性格が基礎づけられます。親、兄弟、友人、先生から正当な愛情を受けていると、他の人に対しても愛情を与えることができるようになります。周囲から十分な愛情が得られていない場合は劣等感を抱いたり、いじめられたり、不登校に陥ったりします。また、親から自立することに不安や葛藤が生じるとストレスとして働き、学業や友人関係に障害をきたします。さらに、学校生活での友人関係や勉学が負担となり、朝、学校に行こうとすると頭痛や腹痛がおこり、自宅に引きこもることがあります。その他、学童期には気管支喘息の悪化、過換気症候群、めまい、食欲不振、アトピー性皮膚炎などがおこりえます。
治療的には、身体症状に対する管理は必須です。さらに、親子ともに心身症の病態を理解し、治療者と共同して病気を克服していくという親子の積極的な態度を伸ばしていくための心理的な働きかけが重要です。
学習障害は、学習や学業における技能に困難さがみられる学習障害の一つです。大きく3つに分類されます。
当院で実施する問診・心理検査で、全体的な発達水準を把握し、発達のバランスを客観的にみることができます。ご本人の得意・不得意を理解した上で今後の接し方について考えていきましょう。
過去の診断名であるアスペルガー症候群や広汎性発達障害も、同じ疾患ですが、症状の出方に強弱やグラデーションがあり虹のように様々な色を含む一つの集合体として捉えようとする、自閉スペクトラム症と呼ばれるようになりました。
(※以下の症状が必ずしも診断に直結するわけではありません)
問診や心理検査を実施し、お子さまご本人の得意・不得意を把握した上で、今後の生活においてのアドバイスや必要な支援の提案などを行います。
当院ではコンサータの処方ができます。
不注意、多動性、衝動性などの主症状が幼少期から生活の複数の場面でみられる状態を言います。
(※以下の症状が必ずしも診断に直結するわけではありません)
問診や心理検査を実施し、お子さまご本人の得意・不得意を把握した上で、今後の生活においてのアドバイスや必要な支援の提案などを行います。
ADHDは薬剤療法での対応も可能です。
小児期の精神状態は年齢によってめまぐるしく変化するため、子供がうつ病にかかっているのかを判断することは大変難しいことです。家庭的環境に問題がある時や、学校での対人関係や学業のことで悩んでいる時に、うつ状態が一時的に出現することが成人と同様に小児期でもあります。
小児期のうつ病は、自覚症状が乏しく、うつ気分が正確に表現されず、孤独感や不安感が前景に現れます。いじめられ、不登校、多動、非行あるいは心身症的な訴えがうつ病症状として現れる場合、小児期のうつ病は見のがされる可能性があります。
子供を育てる親や身の回りの世話をする人からの愛情を失ったり、注意してくれる人がいなくなるとうつ状態が誘発されます。親が病弱であったり、忙しくて愛情がかけられなかったり、留守がちである場合や愛情をかけてくれる人がなくなった場合に起こりやすくなります。仮に世話をしてくれる親が存在しても、精神的に不在ということもあります。両親の価値観が異なっていたり、精神的に愛情に飢えていたり、欲求不満として受けとめられます。養育者から叱られたり、けなされたり、拒否されたりすること、グループでの孤立、友達とのトラブル、テストの失敗、新学期になる時、家族の者の入院、家族からの離別なども小児期のうつ病の重要な原因となりえます。
小児期のうつ病の多くはかかりやすい体質とその時の環境的ストレスの相互関係によっておこります。躁うつ病を家族にもつ場合には、遺伝要因が考えられます。また、慢性の身体の病気で親が長期間入院している場合や子供本人が慢性病で長期間入院を余儀なくされている場合はうつ病にかかりやすいといわれています。
治療的に重要なことは未治療のままであると青年期や成人になってからも同様な状態を引きずっていたり、別の問題が起こったりします。子供のうつ病の治療には親のカウンセリングや家族療法が行われます。家族に対して病気に対する知識や精神的な援助を与えることにより、子供の病気の治療を促します。通常、8歳を過ぎると、子供も家族療法に参加させます。もう少し、年長になると個人的な治療が有効となります。子供の考え方や行動を正しく観察すると、根底に隠れているうつ気分、無力感や絶望感を明らかにすることができます。
いじめは、決して許されないことであり、その兆候をいち早く把握し、迅速に対応することが必要です。文部科学省ではこれまで、学校や教育委員会等に対し、いじめの問題への取組の徹底を要請してきましたが、最近においても、いじめが原因として認められる生徒の自殺事案など、子どもの生命・身体の安全が損なわれるような痛ましい事案がなお発生しています。これらの事案の中には、学校や教育委員会におけるいじめの兆候の把握や対応が不適切であったものも見られ、また、国においても、いじめについての実態把握や対応について、学校や教育委員会の主体的な取組に期待し、受け身の対応となっていたところに課題がありました。こうした課題は、いじめの問題だけでなく、学校安全や体育活動中の安全確保についても、同様に当てはまります。
次代の我が国を担う子どもの育成を図っていく上で、その生命・身体を守ることは極めて重要であり、これまで以上に学校、教育委員会、国、さらには家庭や地域も含めた社会全体が一丸となって、いじめや学校安全等の問題に取り組んでいくことが必要です。このような考え方を踏まえ、これまでの取組を見直し、文部科学省は、当面、いつまでに、どのようなことに取り組むのかを示す「いじめ、学校安全等に関する総合的な取組方針」を策定しました。いじめの問題については、学校や教育委員会等においてしっかりと対応することが基本です。このため、国・公・私立の各学校や教育委員会等においては、文部科学省からの通知等を踏まえ、いま一度、いじめの問題への取組の徹底が必要と思われます。
文部科学省は2012年11月22日、いじめの緊急調査の結果を公表しました。同年4月から約半年間に全国の小中高校などが把握したいじめの件数は14万4054件で、前年度1年分の2倍を上回りました。文科省は「いじめのわずかな兆候でも見逃さないという意識が高まり、大幅に件数が増えた」とみています。 今回初めて「児童生徒の生命・身体の安全がおびやかされるような重大事案」について詳細な報告を求めたところ、全国で278件ありまた。自殺未遂やけがで入院した事例もありました。発生件数は中学・高校で増加しています。文部省が本格的にいじめ対策に力をいれていますが、増加傾向に歯止めがかかりません。
いじめの認知件数の推移は、以下のとおりです。
2011年 70,231人
2012年 198,109人
2013年 185,803人
2014年 188,057人
2015年 225,132人
2016年 323,808人
また、不登校で30日以上、小・中学校を休んだ子供が増加しており、毎年、過去最高を更新し続けています。文部省の分析では、不登校の理由は、いじめを含む学校生活に起因するものが約4割、不安や緊張など本人の問題が約3割、家庭的な問題が約2割とされています。ほぼ半数の不登校の子供達が学校以外で学習指導や相談を受けているようです。いじめ・不登校の子供達をいかに援助いていくかは学校側および我々、大人達の緊急の課題といえます。
不登校に関しては、その発症の原因はさまざまであり、個々に事例にあった対応法が必要となってきます。不登校の際には不安の身体表現として、さまざまの身体症状があらわれます。身体症状や不安症状が著しい場合には、身体の検査を行ったり、薬物を投与することがよい治療関係を結ぶきっかけとなることがあります。いじめや不登校に関わる際に重要なことは、
などがあげられます。
チックとは自分の意志に反して突発的に身体のどこかがピクピク動く、あるいは突発的に声や言葉を発することをいいます。発症は2歳以降、どの年齢でもおこり得ますが、6~7歳にピークがあります。タレントのビートたけしさんが首をくねくねさせるのがこれです。従来、チックは乳児期にきびしくされたり、心理的な緊張を抱えたり、神経質な性格、神経過敏な状態が原因としてあげられていました。最近では、脳の大脳基底核におけるカテコールアミンやセロトニンといった中枢神経系の伝達物質の障害が推測されています。両者が相互に関わっているという考えも多くなされています。
運動性のチック症状として、顔面・頚部などの筋群に多くみられます。最もしばしばみられるのは、まばたきで、他に、首を左右または前後に振ったり、まわしたり、顔をしかめる、鼻にしわをよせる、口をとがらす、口をひん曲げる、舌をつきだす、首をふる、手足、肩や胴体をぴくりと動かすなどがあります。
音声のチック症状としては、声をだす、鼻をならす、突然の奇声、咳ばらい、言葉の繰り返し、「アッ、ウッ、オッ」「バカ、シネ、オッパイ」などの攻撃的、汚言的な発声がみられます。これらの症状は、何かに熱中している時には、軽くなり、睡眠中は消失します。逆に、緊張した場面などでは症状が増強することがあります。
発症年齢、症状の起こり方、持続性などにより、いろいろなタイプがあります。
小児期の一過性のチックは12歳以前に発症し、症状は2週間から1年以内に自然に消失する特徴があります。
小児期あるいは思春期にみられるチック症状で1年以上持続し、思春期後期までには自然に消失するものがあります。また、症状が思春期以後も軽快、悪化を繰り返し慢性に生涯続くチックなどがあります。
治療として、患者とその親に、その症状にあまり注意を集中しないように助言します。精神的緊張をおこさせる環境があればその点に注意し調整指導をしていく必要があります。親の不安が強い場合や親子関係に問題が多い場合は、家族カウンセリングないしは子どもへの心理療法を行います。心理療法としては、行動療法、遊技療法、箱庭療法、絵画療法、催眠療法などが行われます。重度のチック症状の場合には、ドーパミン遮断薬であるハロペリドールが効果的です。その他、ピモジド、クロニジン、クロナゼパム、炭酸リチウムなどの薬物が使用されることがあります。
夜驚症は睡眠の最初の3分の1の間に起こることが多く、睡眠して1~3時間して寝床から突然起き上がり、興奮して布団から飛び出したりします。その際に外見的には恐怖におびえた表情をして、うめき声を出したり大声で叫びながら目を見開いて歩き回ります。数分から10分位持続することがあります。強い不安と頻脈、呼吸促迫、発汗などの自律神経症状を伴います。周りの者が落ちつかせようとして話しかけてもほとんど反応しません。終わるとすぐに眠りに入り、翌朝の起床後には、このことを全く記憶していません。4~12歳に好発し、2~3年のうちに自然に消失するといわれます。
夜驚症の患児は、睡眠中に症状が現れている時に比較的まとまった行動を示すこともありますが、つかまえられたり触られたりすることに強く抵抗することが多いようです。身体をゆらしたり、たたいたり、ベットから起きあがったり、逃げ出したりすることがあります。このような行動は、脅威に対する自己防衛、または逃避の試みを表現していると考えられています。また、夜驚症の発生は、睡眠が深まるとともに自我機能が弱まり、それまで抑圧されていた心理的な外傷体験が突出してきたものであるという考えもなされています。
脳波学的には、睡眠にはノンレム睡眠といって1~4段階まで存在しますが、夜驚症はそのうちの第3および4の睡眠段階で最も多くみられます。深い睡眠から急に浅い睡眠状態になった場合や覚醒が不完全な状態の時に生ずると考えられています。
夜驚症には脳波異常などの身体的要因の他、心理的葛藤といった情緒的要因の関与が指摘されています。
発症や悪化する因子として、疲労、発熱、次子出産、登園開始、転居、緊張、興奮、刺激過多、不安などがあげられます。
夜驚は症状の激しさから家族が睡眠不足となり、親の不安が強くなり、それが患児に影響し、さらに夜驚を増強させるという悪循環をきたすこともあります。
予後は良好であり、特別治療を加えなくても数年のうちには症状は消失するといわれています。 治療に関しては、心理的な原因をつきとめ親子関係の緊張と不安を緩和することを目的に家族カウンセリングないしは環境調整を行うこともあります。
薬物治療としては、第4段階の睡眠量を減少させるジアゼパムや抗うつ剤のイミプラミンが使用されます。
夜、眠っていて尿をもらすことは3歳くらいになると消失するのが普通です。3歳以降になってもおねしょがある場合、夜尿症と判断されます。4~5歳の子供の10~15%になお夜尿が持続しています。7歳の子供では10%、12歳の子供では3%くらいみられます。夜尿症は成長とともに自然になおっていくことが多いようです。
夜尿症には乳児期から引き続く場合の一次性夜尿症と、3歳以降に一端夜尿がなくなるが何らかのきっかけで夜尿が再び始まる二次性夜尿があります。一次性が8割を占めます。原因として、膀胱の筋肉の働きが未発達であるといった体質的な素因が関与していると考えられます。二次性夜尿症の原因は、弟妹が生まれ、親に急にかまってもらえなくなることが契機となったり、本人が赤ちゃんがえりし、夜尿が再び始まることが多いといわれます。
治療は生活指導、カウンセリング、行動療法、薬物療法などを組み合わせて行われます。一次性夜尿症の治療の基本は、年齢とともに治っていくことが多いため、夜尿をしても叱らないようにし、子供に劣等感をもたせたり、依存心を強めたり、ひねくれさせたりさせないようにすることが大切です。子供に「きっと治る」と安心感を与え、心理的な負担を少なくしてあげることが必要です。就寝前の水分をひかえめにし、夜間いつも決まって漏らす時間帯に一回、しっかり覚醒させてから排尿させることが重要です。イミプラミンなどの三環系抗うつ薬が夜尿症に効果的です。利尿ホルモンの分泌をおさえる薬物治療により夜尿がなくなり本人の自信につながる場合があります。また、条件反射的な訓練を目的として夜中、尿が漏れるとベルがなる尿警報装置を用いる場合もあります。
二次性夜尿症の治療は親子関係の調整が治療のポイントです。しかし、夜尿をおこしやすい素因も指摘されているため、治りにくい場合は、一次性夜尿症と同様な薬物治療や行動療法をおこなうこともあります。
いずれにしても叱ったり厳しくしつけようとして、親が焦ったりすることは禁物です。子供の成長を暖かく見守ってあげることが大切です。
自分の身体の毛、主として頭髪(ときに眉毛、睫毛、恥毛)を強迫的に自分の手で引き抜く症状をいいます。
1889年にハロポー M.Hallopeauにより精神病の特殊型として報告されました。その後、幼児期には正常者でもときにみられ、知的障害、てんかん、神経症、境界例、統合失調症、進行麻痺、老年期精神病など多くの疾患でも認められることがわかりました。
一般的特徴として、女性に多く、同胞順位は長子が多く、年齢的には思春期までに起こるのが大部分です。
自覚症状は、ときに掻痒感や抜毛時の快感を感じることがあります。みずから医師を訪れることは少なく、むしろ本人は隠そうとする傾向が多いようです。家族は皮膚科に連れて行くことが多く、精神科医に最初からかかることは少ない傾向があります。
幼児期には比較的単純な欲求不満から起こることが多いようですが、学童期から思春期にかけて起こる場合には家族内の人間関係に問題があることが多く、神経症的で、情緒的にも不安定であり、さらには精神疾患などでも見られることがあります。
本人がみずから自覚される場合と、そうでない場合があります。脱毛状態が不自然、不規則で、脱毛部位の中から新たな正常な発毛がみられることがあります。年長者ではより複雑で家庭環境の詳細な調査により原因が把握される場合があります。
原因が明らかな場合は原疾患の治療、または原因となる環境調整を行う必要があります。神経症的な機序が原因となる場合には、精神療法や心理療法が必要となってきます。薬物治療としてSSRIをはじめとした抗うつ剤が効を奏する場合があります。