人の思考、感情、行動は我々は、日頃はあたりまえのように表現しているようですが、それなりの神経の指令物質が存在し、生理学的な働きにもとづいて行われていることは常識的に理解されることと思われます。脳の青斑核、縫線核、黒質や線状体などといった神経核は、ノルアドレナリン、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質が多く分泌、調節されるところですが、それらが大脳辺縁系や大脳皮質へ連絡されることにより、精神面、心理的な表現や行動が行われていることが推測されます。少なくとも精神安定剤などの薬物は神経伝達物質や神経受容体にどのように作用するかによって研究開発されていることは間違いのない事実です。こういった考え方や知識は、心療内科、神経科的な臨床医療、治療を実践していく上で重要です。
同時に心身症を代表とするストレスが関連して発現する身体の病気や神経科的、精神科的な病気などは全人間的医療の立場から治療していく必要性があります。つまり、患者を身体面だけでなく、心理面、社会面をも含めて総合的にみていこうとする姿勢が重要であると考えております。
アダルトチルドレンとは「大人びた子供」とか「子供っぽい大人」という意味ではなく、両親の不遇な環境や両親の価値観の違い、離婚問題などの混乱に巻き込まれながら育った成人という意味です。例えば、親が何度か離婚していたり、父親はアルコール依存症で母や子供に暴力をふるうなどの体験を持つことが少なくありません。家庭での気苦労が多いため力を失い、自分を大切にして生きることができなくなってしまいます。
元アメリカ大統領のビル・クリントンがこのような実体験があるそうです。
彼の母は離婚しており、義父は酒癖が悪く母を何度も殴っていました。彼は夫婦の争いに分け入って母親をかばい、母とともに家の外で寝ることもあったそうです。「この体験が、調停者として自分を強くした」と語っています。
アダルトチルドレンを治療していくには最終的には自身で自覚していくことです。両親の悪い家庭環境によって影響を受けて、重度な場合はカウンセリングを受ける必要があります。また、アダルトチルドレンを自覚した人たちが集まって互いを励まし助け合う自助グループに参加し、奪われた力を取り戻そうと努力することが大切です。
日本的なストレス対処法に「甘え、おまかせするストレス対処法」があります。「甘える」「おまかせする」というのは一般に欧米人には依存と受け取られがちですが、日本人にとって「甘える」ことは単に受け身的な態度だけでなく、相手から愛情や思いやりを引き出すための積極的な方法であり、ある種の役割演技をしていると考えられます。
土居健郎は日本文化における「甘え」の構造について諸外国に紹介しました。甘えの起源は母-子関係に求められます。日本人はこうした伝統的な親子関係に似た関係を作ることによって、自分の手に余るストレスに対処しようとしています。次につきあいによるストレス軽減作用があります。「人と交際すること」という意味の他に、「義理で行動をともにすること」という日本的な意味があります。日本人の多くは、自己主張せずに、自己犠牲や遠慮や気配りによってお互いの依存関係を確認し、それに属していることに安心感や安堵感を得ているところがあります。こうした関係の中にいる限り、個人は安全であり、安心でき、ストレスが発散できるものと考えられています。ところが、他方で「つきあい文化」への過剰適応によって仕事中毒を生み、高血圧、心臓疾患などになることがあります。逆に「つきあい文化」への不適応は、阻害、いじめを招くことになりかねません。