最近の社会情勢下ではサラリーマンばかりではなく、OLや主婦、子供も複雑な環境の中で奮闘しています。現代は、一億総ストレス時代といわれており、通勤中、職場、家庭内などどこにいてもストレスがかかります。いつ、誰が心の病にかかっても不思議ではありません。ごく身近な人が軽症うつ病や不眠症や心身症などのストレス病で悩んでいます。
心身症とはストレスによって起こる体の病気をいいます。ストレスが重かったり、長期間持続する場合に心身のバランスがくずれやすく、不安、イライラ、ゆううつ、倦怠感、動悸、息苦しさ、発汗、不眠など種々の精神・身体症状があらわれます。
心身症になりやすいタイプには、2つのタイプがあります。一つは過剰適応をしてしまう人で、仕事熱心でがんばり屋、周囲に気を使い、休日も忙しく過ごし、自分の健康に対して自信を持っている人がかえって心身症にかかりやすいといわれています。
もう一つのタイプは自分の身体感覚や感情、情緒などを感じないか感じることが下手な人です。自らの感情を言葉にして表現することが苦手で人間同士の情緒的交流が乏しいのですが、本人はその点をよく理解できていない場合です。さらに、この両タイプをかかえている場合は心身症になる危険率がさらに倍増することが予測されます。
その他、更年期障害、自律神経失調症、恐怖症、ノイローゼ、拒食、過食症に伴う心や体のことで悩んでいる人、あるいはストレスが原因している内科的な病気で悩んでいる人も心身症にかかりやすいと思われます。
病院で種々の検査をして、どこも異常がないと言われても体の調子が悪いと困っている人などは周りの者から「気のせいだ」「なまけ病だ」「気の持ちようだ」「気にしすぎだ」などと言われて、だれも分かってくれない、どこで相談してよいかわからないと迷っている人も多いことと思われます。このような方には薬物治療やカウンセリングが有効です。ぜひ、専門医にご相談ください。
日本のサラリーマン家庭のストレス調査によると夫の75%、妻の58%がストレスを感じており、「イライラ」「肩がこる」「怒りっぽい」「仕事、家事がしたくなくなる」などの現象がみられます。原因として、夫側は「仕事」、「職場の人間関係」があげられます。妻側は「子どもの教育、しつけ」、「家計のやりくり」などとなっております。
心身症とはストレスによって起こる体の病気を言います。ストレスが重かったり、長期間持続する場合に心身のバランスがくずれやすく症状が出現すると考えられます。
心身症になりやすいタイプには、2つのタイプがあります。一つは過剰適応をしてしまう人で、仕事熱心でがんばり屋、周囲に気を使い、休日も忙しく過ごし、自分の健康に対して自信を持っている人がかえって心身症にかかりやすいといわれています。
もう一つのタイプは自分の身体感覚や感情、情緒などを感じないか感じることが下手な人です。自らの感情を言葉にして表現することが苦手で人間同士の情緒的交流が乏しいのですが、本人はその点をよく理解できていない場合です。さらに、この過剰適応と自分の感情に気づきにくい要因の2つをかかえている場合は心身症になる危険率がさらに倍増することが予測されます。
米国で最もよく使用される薬は抗潰瘍剤、降圧剤、抗不安薬、抗うつ薬などです。これらはいずれもストレスに深く関係する病気の薬です。いかに多くの人たちがストレスを抱えているかということがよくわかります。米国では開業医を受診する患者の3分の2がストレスに関係する病気で悩んでいるという調査があります。日本では一般診療科に訪れる患者の約10%が軽症うつ病であるといわれます。今後、ますます、ストレスに関連した病気が多くなることが予測されます。
自営業をしている57歳の男性Aさんは大手企業の下請け業社であるため、親会社から商品の値引きを余儀なくされていました。実働13~15時間で多忙をきわめていました。赤字状態は長引いていますが、親から引きついた工場をつぶすわけにはいきません。全身倦怠感、イライラ、不眠の日々が続いていました。夜の飲酒量がしだいに多くなっていきました。飲酒する度ごとに家族に攻撃的な態度や暴力がみられるようになりました。家族が困り果て、思い切って精神科を訪れました。外来での診察および検査所見では軽度のGOT/GPTの上昇、心理テストで心身症としてのアルコール症が疑われました。
大量飲酒がストレスを誘因として現れてくることはめずらしいことではありません。
今日のように総人口ストレス社会の中にあっては、気分転換の一つとして飲酒が行われますが、それも度が過ぎたり、習慣化すると、アルコール症に至ります。
大量飲酒により、肝障害や膵障害をおこし、内科や外科を受診する人も多くみられます。酩酊し、家族や社会に障害を負わせる場合や事故を引き起こすことも少なくありません。アルコール症にいたると、さまざまな精神神経症状、自律神経症状、行動異常、アルコール離脱症状が出現します。
治療法は何と言ってもやはり断酒とそれに伴う心理的な変化を期待するしか方法はないようです。心理的変化とは「自己洞察」であり、飲酒に因われている自分をありのままに素直にうけとめ、そこから抜け出すにはどうするべきかを自分自身でみつけだすことです。つまり自己の強い意志や決意がないとなかなか、その状態から抜け出せないのがアルコール症の特徴です。周囲のものが何度も飲酒をやめるように言っても、自分自身が一番飲酒をやめなければという自責感、負い目があるため、言えば言うほど、飲酒の問題を本人が認めなくなるといった現象もおこりえます。
アルコール症は人間の成長過程の中で人生上の重大な出来事に出会った際によくありがちな、誰でもが陥る可能性のあるつまずきであると思われます。しかし、その状態から抜け出すためには本人の断酒への動機づけが必須です。断酒会への積極的な参加、アルコール症専門医に相談すること、家族に対する指導を行うなどの専門的な治療が必要です。
薬物治療として、シアナマイドという嫌酒薬があります。飲酒量が少なくなることを目的として、あるいは断酒をする際の決意を固めるための補助的な手段として使用されます。
過敏性腸症候群は腸管の運動機能の高まりと知覚過敏により、下痢、腹痛、便秘、腹部膨満感などの消化器症状を中心に、さまざまな自律神経症状や精神症状がみられます。
本症は日常診療の中で比較的頻度が高く、消化器症状を訴える患者の約30~50%程度です。年齢別には10~30歳代に多く、老年層には少ないといわれています。性差は女性にやや多いようです。
消化器症状としては便通異常が必発で下痢:便秘:交替=2:2:1です。便秘は痙攣(けいれん)性便秘といい固く、小さな、ポロポロした便が出ます。下痢を呈する場合は神経性下痢と呼ばれ、一日に数回の軟便~水様便が生じます。また、便秘と下痢が交互に繰り返される場合もあります。便秘型は女性に、下痢型は男性に多いといわれています。腹痛の程度は鈍痛から腹部不快感まで様々です。
身体症状としては倦怠感、易疲労性、不眠、頭痛、頭重感、首や肩こり、筋肉痛、めまい、動悸、息苦しさ、胸部圧迫感などの自律神経症状を伴うことが多いようです。
また、不安、緊張、抑うつ、イライラ、強迫症状、心気症状(病気へのとらわれが強い)などの精神症状が合併することもあります。
病気の原因は腸管の自律神経の過敏という体質的な素因の他に、身体の疲労や薬物の影響、心理社会的なストレス状況、食事、排便などの不適切な生活習慣、神経症的な性格傾向が関与するといわれています。
本症は、しばしば慢性化し、再発を繰り返すことがあり、そのような場合は心理社会的な因子が関与していることが多く、心身症としての対応が必要になります。
治療は、心身両面からのアプローチが必要です。生活指導、食事療法、心理療法、薬物療法を適宜組み合わせて実施します。
生活療法は過労を避け、十分な睡眠や休養をとり、気分転換や趣味にいそしむことや運動することがすすめられます。食事の摂取や排便習慣も規則正しく行うことが大切です。
食事療法として腸管を刺激するような冷たいもの、アルコール、コーヒー、炭酸飲料などは避けるようにし、便秘型には繊維質の多い食品をとることが必要です。
心理療法としてはまず、心身相関の立場から病気の発生メカニズムについて十分に説明し納得させることが大切です。心理社会的に問題のある患者に対しては、カウンセリングにより、患者の不安や悩みを受容的、共感的に理解し、問題点の解決を促します。必要に応じて、レラクゼーション、自律訓練法、ストレス対処法、行動療法、家族指導などを行います。
薬物療法は心身と腸管の過敏な状態を和らげるために抗不安薬や抗うつ薬とともに、腸運動調整薬、抗コリン薬(腸の運動を抑える)、整腸剤、緩下剤(便軟化薬)、漢方薬などの併用が効果的です。
本症候群は、特に原因となる体の障害が認められず、発作的に過呼吸が起き、結果として過換気発作、呼吸困難、胸部不快感、めまい、体のしびれやこわばり、恐怖感などの多彩な症状がみられます。自律神経失調症、パニック症の部分発作ともいわれる病気です。
発作の特徴は呼吸が早くなり、酸素は十分すぎるほど取り込まれますが、炭酸ガスは異常に失われて、血液はアルカリ性に傾いてしまいます。その結果、交感神経を刺激し、手足のしびれやけいれんを起こし、もうろうとし、意識をなくしてしまうこともあります。
一旦、発作が出現すると、そのこと自体が不安や恐怖につながり、また、発作が起こるのではないかという悪循環が生じます。その悪循環を、なんらかの方法で断ち切る必要があります。
治療は、パニック発作や急性不安発作を伴う場合には、脳内の青斑核や化学受容体とよばれる部分の過敏な状態を抑える作用のあるアルプラゾラムやイミプラミンが有効と思われます。その他に抗うつ薬、β遮断薬や漢方薬などが使用されます。心理療法としては、自律訓練法、行動療法の併用が効果的です。
バセドウ病の原因は、遺伝や免疫の異常が推測されていますが、心理的なストレスが関与しているという報告が多くなされています。
本疾患は甲状腺腫、眼球突出、頻脈、発汗などの典型的な症状がある場合には、診断は比較的容易です。しかし、動悸、発汗、不安のみが症状の中心であることが多く、甲状腺腫がはっきり現れない場合にはパニック症、自律神経失調症や更年期障害と区別がつけにくいことがあります。
バセドウ病では不安、イライラ、気分不安定、落ち着きがない、集中力の低下、活動的で多弁などの精神症状がみられます。これは甲状腺ホルモンの過剰分泌により代謝が亢進し、二次的にカテコラミンという神経伝達物質の作用が増強するために起こるのではないかと考えられています。また、約20%の患者は躁状態、うつ状態や妄想などの精神症状を示すといわれています。
バセドウ病に伴う心身の不調や精神症状に対して抗不安薬、抗うつ薬、精神安定剤が有効です。バセドウ病の原因や経過に心理的ストレスが深く関与している場合には、その環境調整やストレスの対処を促すためにカウンセリングを受けることも大切です。
現代はストレス社会といわれるほど、家庭や職場などでもストレスが蔓延しています。ストレスがさまざまな病気の原因になりうることは周知のことです。慢性的なストレスや疲労の結果、精神的にも身体的にも免疫力が低下し、様々な病気を引き起こすことになりえます。人に優しく従順で、感情を表に出さないというのがC型性格の特徴です。このタイプは、コツコツと仕事をこなし、人当たりもよく、不平不満を言わないでストレスを解消するのがとても下手な人に多いようです。ストレスをためこんで、自律神経失調症、心身症、がんにかかる可能性が高いといえます。
ある実験によれば、笑い体験の前後の血液を採って、ストレスや免疫能力の検査の結果を比較したところ、笑いが、がんに対する免疫力を高めることが明らかになりました。笑いの体験は、血液の成分のリンパ球の一種で、がん細胞をやっつけるNK(ナチュラルキラー)という細胞の働きを活発にさせたのです。また、笑い顔を作り続けることによりNKの活性が増加することもわかっております。
ぜひ、ストレスをためこまないで笑いのある生活をおくり、精神的にも身体的にも免疫力をアップすることに心がけて下さい。
喘息発作が様々な心理的な原因や葛藤状態が強くなった時期に一致して誘発されることはよく知られています。基本にアレルギー体質が存在していることはいうまでもありませんが、発作の誘因として引き金となるアレルゲン(花粉、ほこり、ダニ、カビ類など)、呼吸器感染、大気汚染、ストレスなどがあげられます。喘息患者の30~80%に、心理的な因子があるといわれています。人間関係、過労、ストレスが、喘息発作の発症や悪化の原因となることが多いようです。精神的なストレスや肉体的なストレスは、自律神経系、免疫機能、内分泌系のバランスを乱し、発作を起こしやすくすると考えられています。
性格傾向として自分の感情をおさえて周囲にあわせてしまう、一人で頑張り過ぎてしまう、几帳面で融通がきかない、人間関係がうまくいかないなどの特徴がみられます。
治療法として腹式呼吸、運動療法、気功、ヨガ、温浴、冷浴などがあります。心理療法として自律訓練法、行動療法、カウンセリングなどがあげられます。また、患者自身の心身相関への理解や気づきを促し、適切なストレス対処法をみつけだすための指導が必要となります。
ストレス、不安、緊張をかかえることにより血圧が上昇することはよく知られています。急激な心理的な刺激による血圧の上昇や不適切な環境に長期間おかれた場合に、高血圧に発展すると考えられます。つまりストレスや環境因子が関与して高血圧が発症するという考え方が一般的のようです。
報告によると原因がはっきりしない本態性高血圧の57%になんらかのストレスが関与していると指摘されています。性格傾向として几帳面で粘り強く、意志が強く、感情を抑える特徴があります。一方、外向的で、自発性、順応性が高いなどの一面がみられます。
治療の基本は、食事療法、薬物療法や生活管理が大切です。食塩の制限、油っこいものや塩からいものはさける、コーヒーやタバコなどの刺激物はなるべく避けるようにする、夜8時以降の食事はしない、適切な運動をする、十分な睡眠をとるなどの生活指導が必要です。
高血圧に対しては降圧剤以外に症状や状態に応じて、抗不安薬や抗うつ薬を使用することがあります。リラックスした状態で血圧が安定することを目的として筋弛緩法、自律訓練法、腹式呼吸法、ヨーガ、瞑想、音楽療法などが用いられます。
A型行動パターン(タイプA)とは狭心症や心筋梗塞を代表とする虚血性心疾患の患者に多くみられやすい行動特性をいいます。タイプAの特徴は「せっかちで、時間に追われ、仕事に熱中する、強引に物事を運ぼうとする、競争心が旺盛で、イライラしたり、怒りっぽい」などがあげられます。ストレス環境下で、不規則な生活習慣、高血圧、喫煙、高脂血症などの因子が加わると、冠動脈硬化が進行し虚血性心疾患が起こりやすくなります。
心理的なストレスは大脳皮質で感知され、自律神経や内分泌中枢に伝わり、交感神経を興奮させ、血中カテコラミン分泌の増加を生じ、血圧の上昇、心拍数増加などがおこります。このような状況下でタイプAが発揮されると冠動脈への負荷がさらに著しくなります。
予防法としては、タイプAを修正することが必須です。仕事量をへらすこと、日常生活の速度をゆっくりすること、余暇を楽しむことなどと具体的に指示し、実行してもらい、ライフスタイルの修正をめざすことが重要です。日本人特有の職場で過剰適応する結果として生じる仕事集中的な傾向が強いタイプAに対しては、個人に対するカウンセリングが必要となります。
糖尿病の発現やその後の経過の悪化に心理的なストレスが関係することがわかっています。糖尿病患者では、うつ病の発病率は8.5~27.3%と報告されており、一般人口における発病率の3~4%をはるかに上回っています。療養生活に疲れて、経口糖尿病剤やインスリン注射を中断したり、過食することにより、血糖値のコントロールができなくなり合併症につながることが多いようです。将来への不安から、うつ状態に陥ることもあります。また、糖尿病を長期間わずらっていることにより、動脈硬化があらわれ、脳内の血液の流れが悪くなり、精神症状が出現することも少なくありません。
うつ病患者では脳内のセロトニンという神経の伝達物質の低下が病気の原因の一つとして考えられています。そのセロトニンの分泌が低下すると血糖値が高くなることが知られています。このようなうつ病を併発した糖尿病の患者に対して脳内のセロトニン濃度を増加させる抗うつ薬を用いることにより血糖値を安定させることが分かっており、糖尿病治療に応用されています。
患者の心理状態を適切に把握した上で心身両面からのアプローチが重要な病気といえます。
「近頃、ちょっとボケたかなあ」と訴える人の中には脳動脈硬化性の痴呆という一時的で回復可能な状態があります。
脳動脈硬化の原因として高コレステロール血症、糖尿病、高血圧、老化、環境の変化やストレスなどがあげられます。
精神症状として、変なものがみえる、聞こえる、自分の悪口を言っている、誰かに自分の持ち物をとられたなどと不安を訴え徘徊するといった症状が出現することがあります。これは動脈硬化のため一時的に脳の血液の流れが悪くなり、意識がくもったような現象が出現しておこるものと考えられます。
治療としては、一時的に抗精神病薬という精神安定剤を使用しますが長期投与は副作用の面から避けた方がよいと思われます。急性期の精神症状が落ち着きしだい、精神安定剤は減量していき、脳循環・代謝改善剤に変更していくといった方法がとられます。
予防的には、まず成人病の予防と治療をしっかりしておくことです。また、老化防止のため、日頃から、規則正しい生活を送る、趣味にいそしむ、生きがいを持つ、適度な運動をする、食習慣に注意する、人に接することを心がけ孤独にならない工夫をしておくことなどが大切です。
47歳の男性Aさんは自動車部品の自営業をしており、多忙で残業が多い日々に追われていました。その頃、会社で行われた健康診断で軽度の肥満と高コレステロール血症を指摘され、内科を受診しました。併せて心理的なストレスから不眠傾向が著しかったため心療内科を紹介されました。
仕事に熱中しすぎるとそのストレスによりアドレナリンやノルアドレナリン分泌が促進され、肝臓での脂質の合成、特に中性脂肪の合成が促進されることが知られています。それによって中性脂肪の代謝物である遊離脂肪酸を上昇させることになります。遊離脂肪酸が増加すると高コレステロール血症となり、動脈壁にコレステロールの沈着を高め、動脈硬化を発生しやすくさせます。その他、拒食症や甲状腺機能低下症の患者では高コレステロール血症の人が多いことが知られています。また、アルコールを長期に飲用している人はコレステロールが高くなります。このようにストレスと高コレステロール血症とは密接な関係があるようです。
高コレステロール血症の予防および治療に対して運動療法、ストレス対処法、食事療法、薬物療法が必須といえます。
消化性潰瘍は心身症の代表としてあげられますが、いろいろな原因によっておこります。消化管ホルモン、消化管壁内の神経叢、自律神経系および精神活動などの機能の調整がうまくいかなくなり発症するといわれています。なかでも日常生活から生じる精神的ストレスがその発病の原因や潰瘍の再発に大きく関与すると考えられます。
精神的なストレスが重なると生活リズムが乱れ、食事が不規則となり、それに伴って不摂生に陥り、体調がくずれやすくなります。その他、喫煙、飲酒、生活習慣などの変化による胃粘膜への影響が潰瘍の発現に大きく関与すると考えられています。
ストレスによる潰瘍の場合には、不安、緊張、不眠、抑うつ気分、倦怠感、頭痛、肩こり、微熱、発汗、じんましんなどの精神症状や自律神経症状などがよくみられます。
潰瘍の治療には、まず抗潰瘍薬が使用されます。また、不安、不眠、抑うつが続く場合には、抗不安薬や抗うつ薬の併用により予防効果が期待されます。その他、カウンセリング、自律訓練法、環境調整、漢方薬などを併用することにより再発の予防にかなりの効果が得られます。
アトピー性皮膚炎は通常、生後数ヶ月に発病し、大半は思春期までに自然治癒するといわれます。しかし、最近は成人型のアトピー性皮膚炎が増加しつつあります。その背景に心理的なストレスの関与が指摘されています。その他の原因に遺伝要因、性格、生活環境(ほこり、ダニ、かび類など)、食事内容などがあげられます。
皮膚のかゆみによるイライラに加え、顔面、頚部などの皮膚の露出部に発疹が現れるため、一層、精神的に不安定になり、対人関係、社会生活を維持していく上で弊害となることも少なくありません。
アトピー性皮膚炎になったことで先々、どうなるのかと心配したり、再発したり悪化するのではと悲観的になることもあります。かゆみのため不眠となり、不安がさらに増強することもあります。ステロイド剤の副作用の不安を訴える人も多いようです。
最近、ある日、突然に激しい耳鳴りが始まり、急に耳が聞こえにくくなったという状態が働き盛りのサラリーマンに多くみられます。時にめまいを伴うこともあります。早速、耳鼻科を受診し、諸検査の結果、突発性難聴と診断されても有効な治療法がないことが多いようです。風邪をひいたあとや精神的疲労時に起こることがあります。原因としてウィルス感染、ストレスなどがあげられますが明確な原因は特定されないようです。心療内科を紹介され、ようやくストレスによるものと判断されることも少なくありません。
仕事熱心で几帳面な生き方の人に多いといわれます。ストレスによって自律神経が失調し、内耳の血管の収縮をもたらし循環障害が起こるためではないかと推測されます。
仕事熱中症の人には心身をリラックスさせるために十分な休息をとり、趣味にいそしんだり、生活リズムの工夫が必要になってきます。後遺症としての耳鳴りが内耳の血管の循環障害が原因となっている場合には、特殊な薬物の使用により症状が軽減することがあります。症状が固定されないうちに早めに治療を受けることをおすすめします。
最近、若い人でも「肩がこる」「首筋が痛む」「頭の後方が痛い」「頭が重い」などの訴えで外来を訪れる患者さんが増えています。コンピューターの画面を見る仕事が多くなっていること、残業が多い、ストレスがたまりやすい、疲れがたまっていることなどが原因として考えられます。このような肩こりや頭痛には、安易に鎮痛薬を連用することは避けたほうがよいと思われます。筋弛緩剤や筋弛緩作用のある抗不安薬を併用すると効果的です。
肩こりの原因として、更年期障害、自律神経失調症、うつ病や重度な心理的ストレスが考えられる場合には、抗うつ剤やカウンセリングが必要になってきます。
仕事熱心で几帳面な生き方の人や日常の生活習慣が問題となることがある場合は、職場の環境調整を行ったり、趣味にいそしんだり、生活リズムの工夫が必要になってきます。リラクゼーションを目的とした運動療法、自律訓練法、筋弛緩法などの組み合わせによってライフスタイルの改善をはかることが大切です。ストレッチ体操をおこなって首や肩の筋、腱のばしをしたり、やわらげたり、温めてマッサージすることも効果的です。
「頭が重い」「ズキンズキンする」「頭や首筋がこる」などの訴えで外来を訪れる患者さんが少なくありません。頭痛の大部分を占めるのが緊張性頭痛と片頭痛です。
緊張性頭痛は頭や首筋の筋肉がこり、圧迫感や頭の重い感じを主訴とします。筋の緊張をともなうような姿勢異常や心理的な緊張が原因して、筋の持続的な収縮により血管や神経を圧迫して循環が悪くなって起こるといわれます。この頭痛に対しては通常の鎮痛薬では効果がなく筋弛緩薬や筋弛緩作用のある抗不安薬の併用が効果的です。運動をすることにより筋肉をやわらげたり、入浴で十分に温めてマッサージすることも効果的です。
片頭痛は血管性の頭痛で片側のことが多く、頭の血管が拍動するたびにズキンズキンとした激しい痛みとして感じられます。緊張性頭痛とは異なり入浴で頭痛が著しくなる特徴があります。片頭痛も通常の鎮痛薬では効果がなく第一選択薬として酒石酸エルゴタミン製剤が使用されます。
頭痛は心理的あるいは身体的なストレスにより誘発されます。正確な診断と早期の治療により頭痛の予防や改善が期待されます。
このようにアトピー性皮膚炎の患者は心理的に多くの悩みや不安を抱えていることが多く、治療にあたっては心身両面からのアプローチが必要になってきます。漫然とステロイド剤を使用することがないよう日常の生活指導やカウンセリングを受けることが大切です。
昨年、夏樹静子の「椅子がこわい-私の腰痛放浪記」の闘病体験がつづられた本がベストセラーになりました。内容は心身症としての腰痛症に三年間さいなまれ続けた闘病生活です。整形外科をはじめ種々の診療科を受診して検査をしてもどこにも異常はなく、全国の名医を転々としてやっとたどりついたのが心療内科医であったそうです。自律訓練法や森田療法を取り入れながら、最後に絶食療法が奏効した体験例でした。著者は、自らの腰痛が心身症によるものであるとはよもや考えもしなかったとのことです。
患者さんの中には、「気にしすぎだ」「甘えているから」と決めつけられ、自尊心が傷つけられて受診意欲の低下につながっている方がかなり多くいることと思われます。
心療内科・神経科がどのような病気を扱い、どのような治療が必要であるのかを少しでも一般の方々に理解していただき、夏樹静子さんの例のように一日でも早く治療に結びつくことが私どもの使命だと考えております。偏見がなく気楽に受診ができるような雰囲気づくりにも心がけていきたいと考えております。ぜひ、お気軽にご相談下さい。
自律神経失調症とは全身倦怠感、疲労感、頭痛、めまい、動悸、息切れ、胃部重感、腹部不快感、吐気、肩こり、汗を多量にかく、体のほてりや冷え、手足のしびれ感などの身体的不調を訴えるような不定愁訴症候群をいいます。内科的な諸検査をおこなっても異常が認められず、症状に見合うだけの明らかな身体疾患がみあたらないにもかかわらず症状は訴え続けられます。交感・副交感神経がともに緊張したり、不安定になり、調節が障害されるために起こるといわれています。90%以上が心理的な原因によって発症するといわれております。発症は思春期から中年にかけて好発し、男性より女性に多いようです。
自律神経失調症には神経症型、心身症型、抑うつ型と狭義の自律神経失調症の4つのタイプがあり、それぞれに治療法が異なります。また、自律神経失調症とよく似た病気としてうつ病、不安神経症、パニック症、更年期障害などがあるため治療上、注意が必要です。
治療としては、カウンセリングとともに、抗不安薬や抗うつ薬、自律神経調整剤や漢方薬が用いられます。心身のリラクゼーションを目的として自律訓練法も効果的です。