過食症はむちゃ食いを繰り返し、通常2時間以内に大量の食物を急速に摂取することを反復します。高カロリーで消化されやすい食物を摂取したり、盗み食いをしたりして、自分でも異常であることを自覚しているものの、自らの意志で接食をコントロールすることができない状態となります。また、拒食症と比較すると活動性は低下し、むちゃ食いしたあとに、抑うつ気分や自己卑下におちいりやすい特徴があります。個々の過食症患者は正常体重であるか、またはむちゃ食いのため正常より肥っていることもあります。このむちゃ食いは1週間に2回の頻度から1日数回に及ぶこともあります。このため正常体重の過食症の患者は何年も病気を隠し通すことができる場合があります。拒食症と同じように典型的な過食症は思春期に発病します。しかし、多くの患者はその奇妙な行動を恥じて、30~40歳代になっても治療を受けないこともあります。拒食症と同じように早期に治療がなされれば、よい結果が得られるものです。性格的には過食症の人は拒食症の患者よりも衝動的で、アルコール乱用や薬物乱用、家族の者への敵意、家族の者を依存しながら支配しようとする傾向、家庭内暴力、病的盗癖などがめだちます。不安やストレスに対処していく過程のなかで、なかなか自信や希望がもてなく肥ることを極度におそれます。多くの過食症の患者は深刻なうつ状態となり、衝動的な傾向が加わり、自殺の危険性が高くなるといわれます。
過食症の大半が拒食症のエピソードがあり、この場合、嘔吐、下剤や利尿剤の乱用が認められることが多いようです。うっ積した様々な感情や欲求のはけ口として法外な規模の過食が起こります。それは本人とその家族には貪欲で醜い人間失格の行為と受けとめられます。この不快な思いを帳消しにしてくれるのが、徹底した嘔吐と激しい下痢であり、本人にとって大きなストレス解消法になっているようです。
治療は早ければ早いほど経過はよいということがいえます。異常な食行動が長く続く場合、この病気の克服が困難になります。患者の情緒的な問題に対して精神療法が必要になります。患者は自分の病気を理解し、それに立ち向かっていくために、治療者や家族や周囲の関係者などからの治療や心理的なサポートを受ける必要があります。また、過食症患者には集団精神療法が有効です。彼らは自分達のむちゃ食いの行為が自分だけではないことを知り、たいへん救われます。グループに参加することにより同じ問題を抱えている人たちとお互いに助け合うことができます。情緒的な問題が家族と関わりがあれば、個人または集団精神療法にさらに家族療法を加える必要があります。過食の原因となっている家庭的な状況を理解し、修正できるよう援助していきます。また、食行動の修正に治療の焦点を向け、好ましい行動に対して報酬を与えたり、またはそれをモデルとして行動してもらうように指導や援助しいくような行動療法があります。さらに、認知行動療法といって体重や食事などの食行動についての患者の思考の歪みを修正するように治療を進めます。接食障害の患者にはしばしば抑うつ状態が 伴います。このような場合、抗うつ薬の投与が行われます。
治療者や周囲の者は病気の特徴をよく理解し、拒食の裏にある患者の気持ちを理解しようとすることが重要です。長い経過をとりやすいため治療から脱落することも多くみられます。よい治療関係を保ち治療同盟を形成することが大切です。
拒食症は近年ではかなり頻度が高くなっている傾向にあり、12歳頃の思春期から20歳代の女性に多いといわれています。まず食事をとらないこと、やせが強いこと、無月経の症状の背後に肥満になることへの嫌悪、やせ願望が強いこと自分の身体へのイメージのズレがあることが特徴的です。きりがなく痩せていくことにより安心、確実、優越といった感覚を手にいれようとします。摂取量を常に制限していなければならないと感じ、食事のカロリー計算がなされ、体重を気にしたりします。著しくやせ衰えてしまってもそれを正しく認識できず、まだ自分は肥っていると思い続け、さらにやせたいと考えます。
拒食症は自分の身体そのものが確認強迫と洗浄強迫の対象になっているように思えます。胃腸の中の物をできるだけ空っぽにしておきたいのは消化器管の洗浄癖といえます。一方で料理するのを好み、人に食べさせようとしたり、こっそりとかくれ食いをすることがあります。拒食症の30~40%に過食や自分で吐く行為がみられます。ことごとく肥満をおそれており、嘔吐、下剤、利尿剤、やせ薬などの乱用がみられます。
減食が極度になるころに無月経がはじまり、低血圧、低体温、徐脈、皮膚の乾燥、うぶ毛の密生や浮腫が認められるようになります。
病前性格として強迫的、努力家、活動的な傾向があり、成績の良い、負けず嫌いの子に多く、几帳面で完癖を求める性格が特徴です。かなりやせていても活発な運動ができたり、元気にふるまうことができることもあります。発病後に、対人接触が少なくなり、家族の物に対し反抗的、攻撃的となります。一方、母親に対して依存的な一面がみられます。
原因については体質、家族関係、精神分析の立場から研究がなされていますが、成熟拒否、女性性の欠如や拒否、思春期の心因的な要因が深く関与しているといわれています。
予後については種々な報告がありますが、わが国の調査では自然治癒する例が44%、軽快するのが39%、慢性化する例や不変の者は14%、過度の栄養障害や身体的合併症で死亡する例は3%です。
治療は食欲増進、体重増加、治療意欲を目的として食欲増進剤や抗うつ薬や抗精神病薬などの薬物療法が使用されます。漢方薬は比較的軽症の場合に効果があります。しかし薬物単独では、拒食症の中核症状であるやせ願望や肥満恐怖に対する効果は期待できません。薬物療法以外の治療法として、通常の点滴、経鼻腔栄養、経中心静脈高カロリー輸液などの非経口栄養法、また、面接によるカウンセリングを通じて、青春期の問題の解決を援助していく心理療法があります。さらに患者が食べて体重が増加すれば、報酬を与えることにより、食べるという行動を強化する行動療法、また、体重や体型や食事についての患者の思考のゆがみを修正し、食事習慣を自己コントロールできることを目的とした認知行動療法などが行われています。家族療法は治療者が患者と両親の間で中立、公平な立場を取るように心がけ、共同して治療を進めていきます。家族の者の病気についての理解や患者への理解を深め、両親の未熟な面をみつめなおし、強化していくことが大切です。
すなわち精神療法やカウンセリングを中心とした多面的アプローチが必要な病気といえそうです。勇気を持って専門医に相談することが望まれます。